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猟奇と孤独、そして優しさ――短編映画『サバ人間』が描く切ない人間模様

短編映画『サバ人間(Mackerel-man)』は、静けさの中に狂気と優しさが共存する不思議な作品です。
監督は上川林太郎さん。神戸芸術工科大学在籍中に制作された学生作品でありながら、国内外の映画祭で高く評価され、ショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)2025にも選出された話題作です。
タイトルだけを見ると、一見ギョッとするかもしれません。「サバ人間」――魚のサバと人間が融合したような、奇妙で異質なイメージ。
しかしこの物語に流れているのは、決してグロテスクな恐怖ではなく、むしろ孤独な人間が世界とどう向き合うかという、どこか切実なテーマです。
あらすじ:手紙を介して交わるふたりの世界
物語の主人公は、郵便配達員の桃(タオ)。
彼女は、ある男性――通称「サバ男」の家に荷物を届けるたび、謎めいた手紙を一通ずつ受け取ります。
その手紙の差出人も、宛先も、はっきりとはわかりません。ただ、彼の中に何か強い思いがあることだけは伝わってくるのです。
ある日、桃は街中で偶然、サバ男がアイスクリーム屋台を営んでいる姿を見かけます。
静かに暮らしていた彼が、なぜ突然そんなことをしているのか――桃は不思議に思いながらも、その姿にどこか目が離せなくなります。
サバ男と桃の間には、言葉にできない距離感があります。
それは「他人」としての線引きであり、同時に「理解したい」と願う気持ちの証でもあります。
ふたりの関係がどう変化していくのか――その過程を淡々と、しかし繊細に描いていくのが『サバ人間』の特徴です。
タイトル「サバ人間」に込められた意味
「サバ人間」という言葉には、監督の深い意図が感じられます。
サバは海を泳ぎ続ける魚。止まれば死ぬとも言われる生き物です。
それはまるで、立ち止まることができず、もがきながら日々を生きる現代人の姿を象徴しているかのようです。
そして「人間」という言葉を重ねることで、観客に問いかけます。
――あなたは、本当に“人間”として生きているだろうか?
――それとも、ただ流されているだけの“サバ”のような存在になっていないだろうか?
タイトルは奇抜でありながら、実はとても哲学的なのです。
静けさの中に漂う“狂気”と“優しさ”
この作品の最大の魅力は、静謐な映像の中に潜む狂気と優しさのバランスです。
映像は淡いトーンで統一され、派手なカットも演出もほとんどありません。
しかし、その「静けさ」こそが、登場人物たちの心のざわめきを際立たせています。
サバ男は決して“怪物”として描かれていません。
むしろ、不器用なまでに優しく、どこか痛々しいほど純粋な存在として映ります。
一方の桃も、仕事として関わっているはずが、いつしかサバ男の世界に引き寄せられていきます。
その距離の変化は、ごくわずかな表情や視線の動きで表現されており、セリフに頼らず感情を伝える演出の巧みさが際立ちます。
まるで“静かなラブストーリー”のようでもあり、“孤独の寓話”のようでもあります。
手紙というモチーフの深さ
作品の中で繰り返される「手紙の受け渡し」は、単なるやりとりではありません。
それは、心の奥底にある想いをどうにかして伝えたいという、人間の本能的な行為の象徴です。
人は言葉を失うと、文字に頼ります。
そして、文字にできない感情は沈黙として残ります。
『サバ人間』の世界では、その「沈黙」こそが大きな意味を持っており、観客の想像力を刺激する余白となっています。
この構造があるからこそ、作品を見終えたあとに「自分だったらどんな手紙を書くのだろう」と考えさせられるのです。
アイスクリーム屋台の意味――“世界との接続点”
物語の後半でサバ男が開くアイスクリーム屋台は、印象的な象徴です。
屋台というのは、人と人が出会う場所。誰もが立ち寄れる“開かれた空間”です。
これまで閉じこもっていた彼が、ようやく外の世界に関わろうとする、その一歩が感じられます。
しかし同時に、どこか不穏さも漂っています。
「なぜアイスクリームなのか」「なぜ今なのか」――その答えは明示されません。
だからこそ観客は、サバ男の心情を想像せずにはいられないのです。
この曖昧な余白が、『サバ人間』の魅力の一つだと思います。
説明を削ぎ落とすことで、観る人それぞれに“解釈の自由”を与えているのです。
魂の静かな叫びが聴こえる
『サバ人間』は、猟奇的でもあり、詩的でもあります。
奇抜な設定の裏にあるのは、「理解されない痛み」「誰かと繋がりたいという願い」といった、人間の根源的なテーマです。
作品全体に流れるトーンは非常に落ち着いており、過剰な感情表現はありません。
それなのに、観終わったあとにじんわりと胸が熱くなるのは、画面の隅々に“人間らしさ”が詰まっているからだと思います。
サバ男の沈黙。桃のまなざし。
そして、ふたりの間を流れる静かな時間。
その一つひとつが、言葉にならない“魂の叫び”のように響いてくるのです。
まとめ:不器用な優しさを描いた異色の短編
『サバ人間』は、タイトルこそ奇抜ですが、実際は非常に繊細で人間的な作品です。
不器用な人間たちが、それでも誰かと関わろうとする――そんな切なさが、全編を通して滲んでいます。
猟奇性や狂気という言葉で片づけるには、あまりにも優しい。
優しすぎるがゆえに、世界に馴染めない人々の物語。
それが『サバ人間』の本質なのかもしれません。
静かで、美しくて、少し怖い。
そして、どこか懐かしい。
そんな不思議な余韻を残す短編映画でした。
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