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「自認ユーベル」という新しい自己像——“優しさ”と“狂気”のはざまで

「自認レゼ」と並んで語られる理由

近年、SNSを中心に「自認レゼ」「自認ユーベル」という言葉がじわじわと浸透しています。
これは、「自分はレゼ（あるいはユーベル）のような人間だ」と自己認識する、いわばキャラクターを通して自分の人格を表すネットスラング的な文化の一部です。

「自認レゼ」とは、『チェンソーマン』に登場するキャラクター・レゼを自分の内面に重ねる表現。
一方「自認ユーベル」は、『葬送のフリーレン』に登場するユーベルというキャラクターをモチーフにしています。
この2人の名前が並べて語られるのは、どちらも**“女性の中に潜む二面性”を象徴する存在**だからです。

レゼという存在——「恋」と「任務」のはざまで

まず「自認レゼ」からおさらいしましょう。
レゼは、『チェンソーマン』の第2部に登場するキャラクターで、一見すると可憐で無垢な少女。しかしその正体は、デンジを監視・利用するために近づいたスパイです。
その二重性こそが、彼女の最大の魅力。
優しさと残酷さ、愛と裏切り、現実と理想。レゼはその狭間に立つ存在であり、彼女に自己を投影する人は「本当の自分を隠して生きている」「愛したいのに傷つけてしまう」といった心情を抱えています。

SNSで「自認レゼ」を名乗る人たちは、自分の中の“素直な愛情”と“生きるための仮面”の両方を受け入れたい人たちです。
つまりレゼは、社会の中で本心を隠しながらも、誰かに理解されたいと願う現代人の象徴なのです。

そしてユーベルへ——“共感”の危うさを抱えた魔法使い

一方、「自認ユーベル」は少し異なる方向を持ちます。
ユーベルは『葬送のフリーレン』の魔法使い試験編に登場するキャラクターで、静かな笑みを浮かべながらも、人をためらいなく殺す冷徹な側面を持っています。
しかし彼女の力の根底にあるのは“共感”。
ユーベルの魔法は「共感した相手の魔法を模倣できる」という特殊能力であり、これは単なる模倣ではなく、相手の内面に深く入り込み、理解したうえで奪う力なのです。

ここにユーベルという存在の怖さと美しさがあります。
共感とは本来、優しさや思いやりの象徴ですが、ユーベルはその“共感”を武器として使う。
つまり、「優しさ」を理解しているからこそ、「残酷さ」を選べるキャラクターなのです。

自認ユーベル——“共感しすぎる人”の自画像

SNSで「自認ユーベル」と名乗る人たちは、自分を“人の感情に敏感すぎるタイプ”と感じている傾向があります。
他人の気持ちを察しすぎて疲れてしまう、相手の心に入り込みすぎて自分を見失う。
そんな“共感の呪い”に苦しむ人が、ユーベルというキャラクターに強く共鳴するのです。

ユーベルは人を殺すことに罪悪感が薄いキャラクターとして描かれていますが、それは「共感を知っているがゆえに、他者の痛みを感じないように心を切り離した結果」でもあります。
つまり彼女は、“感情を切りすぎたHSP（Highly Sensitive Person）”のような存在。
人の気持ちに寄り添いすぎた結果、壊れてしまった心の末路を体現しています。

自認レゼと自認ユーベル——似て非なる二重性

「自認レゼ」と「自認ユーベル」は、どちらも“二面性を持つ女性像”を象徴していますが、そのベクトルは異なります。

観点	自認レゼ	自認ユーベル
ベースとなる作品	『チェンソーマン』	『葬送のフリーレン』
表面的な印象	可憐で儚い少女	静かで妖しい女性
内面の本質	愛と任務のはざまでもがく	共感と冷徹の境界で揺れる
自認する人の傾向	愛されたい・本音を隠して生きる	人の心を理解しすぎて疲れる
象徴する感情	恋・裏切り・自己防衛	共感・孤独・諦め

レゼは「愛したいけど傷つけてしまう」キャラであり、
ユーベルは「理解しすぎて壊れてしまう」キャラ。
どちらも「他者との関わり」で自分を見失っていく存在なのです。
だからこそ、現代人がこの2人を“自認”したくなるのは自然な流れとも言えます。

「自認文化」とは何か——キャラクターを通じた自己表現

「自認〇〇」という言葉が流行している背景には、現代のSNS文化における“キャラクターによる自己開示”の流れがあります。
直接「私はこういう人です」と言うのではなく、「私はレゼっぽい」「私はユーベルみたい」とキャラクターに例えることで、
自己を守りながらも本音を伝えるという新しい表現手法が生まれました。

人は本来、複雑で矛盾する感情を抱える存在です。
でも、直接「私は優しいけど冷たい」「愛したいけど怖い」と言葉にするのは難しい。
そのとき、アニメや漫画のキャラクターが“代理言語”になるのです。
「自認レゼ」「自認ユーベル」という言葉は、そうした心の翻訳装置としての役割を果たしています。

ユーベルが映す現代の孤独

特に「自認ユーベル」が共感を呼ぶのは、現代社会が“共感疲れ”の時代にあるからです。
SNSでは常に「人の気持ちを考えて」「共感力が大事」と言われます。
しかしその一方で、共感しすぎた人が心を病むケースも増えています。

ユーベルは、その“行き過ぎた共感”の末に心を切り捨てた存在。
彼女は、やさしさの先にある残酷さを知ってしまった。
だからこそ、彼女を“自認”する人たちは、自分の中の冷たさを肯定したいのです。
「私も、感じすぎるからこそ無感情になってしまう」
——そんな痛みを、ユーベルというキャラクターが代弁してくれるのです。