はじめに
4th SHOT「時の都アドニス(後編)」に引き続き、5th SHOT「色彩都市の少女」のレビューを行う。見る人を魅了する「王ドロボウJING」の世界観は、何度見ても色あせることがない。毎回登場するジンガール(ボンドガールようなような女性達)にも注目だ。今回は時間と時計がテーマのある街の話である。
「王ドロボウJING」とは?
本作は“王ドロボウ”であるジンとその相棒キールが、目的のモノを盗むための冒険を描いた物語。「ドロボウの都編」「第七監獄編」といったように、数話ごとに構成される独立した物語の連続となっている。
物語の舞台は各エピソードごとに、「世界中からドロボウが集まっている」「時間に支配されている」など全く異なる世界観を持つ。そこでジンは、ボンドガールのように毎回「ジンガール」と呼ばれる、舞台や盗む対象と何らかの関わりを持つヒロインと出会い、目的のものを盗むべく一緒に行動する形でストーリーが進む。
5th SHOT「色彩都市の少女」を徹底レビュー
「牛しかいない」とキールは文句を言う。モノクロの牛の上に乗りながら、色彩都市ポンピエに向かう。カラフルな街がすぐに目の前に広がる。
オークション会場では、多くの人が興奮の様子で参加している。オークションにはある女の子が出店されていた。輝くような金色の髪色の幼い少女は車椅子に座り、照明をただ浴びている。オークションの金額は高騰する。数々の人が落札しようと試みる。そこで「4万」という声が。この男性が勝ちかと思いきや、何やら奥から怪しげな鎧を着た人が現れる。その騒動の隙に、キールはその少女を裏に運び入れる。運びながら勢いを増したその車椅子はステンドグラスを打ち破り、空中へ。キールがなんとか捕まえようとも、落下してしまう。
間一髪のところでジンが少女を抱き抱える。そしてオークション関係者を車で巻いて、ジンたちはどこかへ向かってしまう。「そいつらを色男にしちまいな」と。
その少女を落札したであろう男性(ドランブイ)が、「我が社の所有物だ。すぐに手を回せ」と指示を出す。
暗い地下室で先ほど少女の前にオークションにかけれらていたカラフルな鳥とキールが会話している。「ドランブイもまさか自分の家の地下室に逃げ込んでいるとは思わないでしょう」と。ドランブイは、この芸術都市を牛耳っており、本業は有名な絵具作家ではあるが有名な収集家らしい。この金髪の少女を落札したのもドランブイだった。金髪の少女はゆっくりと眠っている。と、思いきや少女はキールたちの会話を聞いており「それは私の父のせいなんです」と物知りそうに会話に入ってきた。
体を起こしてみんなを見つめる。少女は徐に服を脱ぎ出す。「私は人間であると同時に一つの作品である」と呟く。暗闇で揺らめく蝋燭の炎に照らされるのは、体に刻まれた絵画だった。鳥は少女をフィーノと呼ぶ。
「まだ見つから無いのか」とドランブイは絵画を見ながら側近に尋ねる。「あの少女は必ず自分のコレクションに入れたい。異端の画家”ヴァンクオート”の傑作だからな」とワインを形につぶやく。
そして少女は回想をする。「私の父はありとあらゆるものをキャンパスにしたという伝説の画家だった」と。実際、紙にも石にも生物にも、世界中が父のキャンパスであり作品のように絵を描き続けたようだった。ジンは黙って聞いている。実は少女の前に落札されたカラフルな鳥もヴァンクオートの作品のひとつだと言う。ジンはヴァンクオートを知っている。ヴァンクオートには最大にして最高にしても関わらず誰にも見せたことがない幻の傑作があり、それは未完のまま画伯のアトリエに眠っているのだ、とジンは言う。その作品こそ、少女であった。
しかし少女は涙しながら語る。「父は私を捨てました」と。自分の作品のために、母と幼かった少女を捨てたのだと。この世のすべての色を再現する絵具がないことを知った父は絵具を求めて旅にででたのだという。そして父を探すたびに母と少女も旅に出た。しかし旅の途中、母は倒れてしまう。
ジンは冷静に「どうして消そうとしないんだ、その絵を」と少女の体に描かれた絵のことを指摘する。
同時に守衛が、この隠れ家に気づいて見守りにきた。守衛は護衛を呼ぶがキールロワイヤルで一掃される。
そこにポスティーノが。彼は「幻の傑作は彼女の記憶の家にあるらしい」とまたメッセージを残し、どかに行ってしまう。
ジンたちはうまく身を交わした。ドランブイを空かないバーの店主が、ジンたちをかくまってくれたようだ。店主はポンピエの街のことを話し始める。ドランブイが街を仕切るようになって、ブラックマーケットが蔓延るようになり、絵画は取引の道具となり、芸術はどこかに行ってしまった。
燃え盛る暖炉の火を見て、少女は過去の記憶を思い出す。かつて家族で楽しく過ごしていた頃の記憶だ。どこまでも雪。母さんとの別れ。
少女の記憶を頼りに、その家に向かうことにした一行。果たして、そこには何があるというのか。しかし、ジンたちの後ろで、悪巧みをするドランブイの姿が。
ジンたちはその家に到着した。フィーノは自分の家なのに他人の家のように味気ないと呟く。部屋を回るとたくさんの鳥籠の部屋が。母は鳥を飼うのが好きだったらしい。
「トロンプルイユ」とジンが言った。「絵ならここにあったぜ」と。どこからどう見ても浮き彫りだが、ランプの明かりをかざすとどうやら浮き彫りではなく絵画らしい。ものの立体感を巧みに表現した絵だったのだ。そうしたものを「トロンプルイユ」というらしい。トロンプルイユはフィーノの父の得意な画法の一つだったようだ。
ジンが骸骨の部分を押すと、ゆっくりと扉が開く。一行は霧で先が全く見えない場所をひたすら進む。その奥にあったものは・・・?
なんと、部屋の奥には氷漬けにされたフィーノの父がいた。誰もが唖然とする。なぜ、旅に出たはずの父が家に?
確かにクオート画伯は旅に出ていた。しかしそれは人口凍結装置の中の旅である。真実の色を求めて、理想の色を見つけるまで寝て待っているのだという。
いつの間にかフィーノがいなくなっている。ジンたちは家の中を走り回って探す。すると大きな部屋の奥にフィーノの姿が。彼女は大きな絵画の前に立っていた。大きな大理石の壁全体が大きな一枚の絵になっていた。大理石の紋様を雲や山に見立てて、フィーノの父の絵と融合させたこの絵画こそ、幻の絵画であった。自然界の色を人工の色の一大傑作だ。
「しかしその絵には赤色がない」と後を付けてきたドランブイが話す。キールがすかさずドランブイに攻撃するが、あっさりとやられてしまう。フィーノはドランブイの手下に長い舌のようなもので締め上げられ身動きが取れない。
ジンと手下が戦っている間に、ドランブイはクォートに「起きてくれクォート先生。耳寄りな話がある」と話しかける。
どうやらクォートは本物の赤を求めて自動人工装置に入っていたようだ。
そこでドランブイはクォートに指し示す。「これが求めていた赤だ。我々が作ったり」究極の赤だ」と。ドランブイが渡したその赤の絵具を持ち、そっと立ち上がるクォート。拮抗しているジンたちの戦い。ドランブイはクオート画伯の表情を見て、「やる気になったのですね」と一言。しかし、クオート画伯は絵具を床に撒き散らし、高笑いする。「これが赤だと?こんな赤など・・・私が欲しい赤はこの赤だ!」と、なんと松明を手に取り、絵画に火をつけだのだった。
手下は火に気を取られ、フィーノを一瞬離す。その隙を見てフィーノは父の元に向かった。近づいてくるフィーノに昔の面影を感じるクオート画伯。そしてフィーノの体に描かれた絵画が顔を出す。
屋敷を埋め尽くす火。見つめ合う親子。
ジンたちはキールロワイヤルでドランブイの手下をやっつけたのだった。
しかし、館は火で埋め尽くされていた。フィーノは「お父さん」と手を差し出したが、崩れた館の瓦礫で一瞬だけ触れたのその手は離れてしまう。絵画は見る間にうちに火の気に飲まれる。
「フィーノ。父さんはまた旅に出たんだ。次に会うのはもうちょっと先」そうジンは言う。そして少女はポンピエの街に戻る。しかし街は見たこともないほどの雪に覆われていた。まるでクオート画伯の死を悼んでいるようだ。フィーノは自分に刻まれた絵画を消さないでこのまま残しておく、と心の中でジンに伝えるのであった。
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5th SHOTの登場人物
ジン&キール
ドロボウの中のドロボウ。ドロボウの王のジンと、付き添いのキール。二人の合わせ技はキールロワイヤル。
ポスティーノ
物語の重要な局面に必ず登場する郵便配達員。今回もネタバレたらたらで登場してくれた。
ドランブイ
色彩都市ポンピエの権力者。裏社会を牛耳る張本人。狙ったものは逃さない性格。キールに「トランプ顔」と言われていた。
鳥
クオート画伯の作品の一つである鮮やかな鳥。性別はメスらしい。オークションで競売にかけられれていたが、どさくさに紛れ込み、開放された。
少女(フィーノ)
クオート画伯の唯一の娘。体に絵画が刻まれている。母とともに旅に出た父を探すが、母は途中で倒れてしまう。
クオート画伯
フィーノの父。世界をキャンパスにして絵画を制作していた。究極の赤を求めて、自動冷血装置に入る。最後には自分の作品とともに火の中に消えていった。
今回盗んだお宝は?
今回ジンが盗もうとしていたものは、ヴァン・クオート画伯の伝説の絵画だった。最古にして最大の幻の傑作。しかしこの絵画は、クオート画伯が最高の赤を求めて旅に出てしまい、未完のままとなっており、最終的に最高の赤が見つからずに、本当に未完としての結末を迎えた。さらに結果としてこの絵画は、クオート画伯が自らの手で焼き払ってしまったので、もうこの世になくなり、今回は盗むことができなかった。
しかし、王ドロボウのJINGである。クオート画伯が究極の赤を求めて旅に出たものであれば、いつか究極の赤を見つけて、形になったときには、ジンがまた盗もうと行動するかもしれない。
感想・レビュー
今回は、王ドロボウJINGの中でも一際切ない回であった。2nd SHOTのように毎回ジンに恋をしてハッピーな展開となるわけではない。別れがこんなにも胸を裂くような痛みを残す回もあるのだ。それが、今回の「色彩都市の少女」であった。
今回はクオート画伯は自らの手で伝説の絵画を焼き払ってしまったので、ジンは生憎お宝を盗むことができかなった。しかし、ジンはフィーノへ大きな宝を残している。それは「フィーノが生き続ける」ための言葉である。母も失い、父も失ったフィーノにはもう誰も残されていない。けれどもフィーノは、最後に生きることを決めたように思える。それは、自分に残された絵画を消さないでおくことだ。そして母が大切にしていた鳥を自分自身も大切にすることだ。
王ドロボウJINGは伏線の回収をうまく散りばめて、物語の終わりに全て回収するという巧妙な技を行なっている。今回で言えば、火だ。物語の中で何度も「火」が登場する。
- ドランブイの家の地下に隠れている時のキャンドルの炎
- ドランブイの手下に追われて隠れたときのバーで見た暖炉の炎
- クォート画伯が伝説の絵画に放った炎
これら全てが、クォート画伯が最後に放った炎や彼が追い求めた赤=炎のオマージュとして考えられる。
また、フィーノは自らの思い出を暖炉の炎を見るとことで思い出した。彼女にとって思い出は温かいものだ。赤や炎は、彼女にとっての家族のイメージでもありそうだ。最後にフィーノは父であるクォート画伯を助け出そうと炎の中に飛び込む。しかし助け出せずに終わった。これは、フィーノの家族というものは、炎の中にしか存在することができずに、炎から出ることができないことを意味しているように思われる。現にクォート画伯は生き延びることがでなかなかった。これに反して、冷たい世界=雪や氷の世界はフィーノにとっては、現実であり家族がいない世界を意味する。
悲しいが、フィーノの心のうちを、温かい炎=家族がいる世界、冷たい雪=家族がいない世界と捉えることができる。人は物体から温度を感じとることができるので、アニメを通してこうしたフィーノの熱も感じられるのではないだろうか、
また、今回は色彩都市ということで、「色」がテーマだった。さらに深く考察をすると、クォート画伯が追い求めていた「赤」は、「情熱」「興奮」「血」などまさに生きているものを示す。考え方によっては、クォート画伯は自分の絵画に対する情熱を表すために、「赤」を追い求めていたのかもしれない。「赤」が見つかると、自分の情熱への答えとなり、芸術への探求がそこで終わってしまう。「赤」を探して永遠の旅に出たのだとすれば、クォート画伯の芸術への探求は、永遠に終わらないのとを指すだろう。
また、物語の最後にポンピエに降り積もった雪の「白」からは、「無実」「潔白」などを連想する人も多い。「無実」として紐解くのであれば、クォート画伯が自らの娘の体をキャンパスにしたことは、罪ではないとフィーノが断言していると解釈できる。「消さないでそのまま絵画を残しておく」というフィーノの言葉にあるように、父がしたことを容認する=無実として受け入れると読み取れる。また、白は「まっさらな状態する」という色のイメージから、父を失ったものの残された鳥と共に新しい人生を歩んでいくという門出としても捉えることができる。これまでフィーノは父に刻まれた体で過ごしていた。しかしこれからは、まっさらな世界=真っ白なキャンパスとしてフィーノが自由に描いていい世界となったと解釈もできる。新たなスタートとしての「白」ということである。さらに言えば、「白」=生きているもの、反対に「黒」は亡くなったものとして、フィーノと父との決別を意味するかもしれない。
どの捉え方でも、フィーノがこれから新しい人生を歩むということには代わりはない。
王ドロボウJINGの中でも、屈指の傑作である。なんとも後味が悪い終わり方のような気もするが、ジンは、フィーノの「縛られた過去」を盗みだし、彼女の門出のきっかけとなったと解釈すれば、いささかは気が張れそうだ。フィーノの明るく鮮やかで華やかな幸せを祈りながら。
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